己が無能

この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ - 登美彦氏、また地下に籠もる

 「締切に対して怒っているのではない」と登美彦氏は述べる。「それほどワタクシ、ぜーたくもんではない」

 登美彦氏が怒っているのは、己が無能に対してである。さらには、自分はあまり頑張らずに七月の登美彦氏に仕事を押しつけた、六月の登美彦氏や五月の登美彦氏に怒っているのである。しかしいくら怒り心頭に発したところで、六月の登美彦氏も五月の登美彦氏も、すでに過去へと逃げ去って、彼らの右頬を音高く殴ってやることもできない。しかも来る八月の登美彦氏は「俺はもう余裕ないぜ」と言って、七月の登美彦氏から引き継ぎを受けようとしない。

 そうして七月の登美彦氏はますます腹を立てるのである。


あるある。